法話

心のよりどころ

 この数年の間に「終活(しゅうかつ)」という言葉がテレビや新聞などで取り上げられる機会が急増し、それをテーマとした書籍なども多く見られるようになりました。その背景には、少子高齢化や核家族化が急激に進んできたこと、或いは都市部への人口集中による地方の過疎化などの社会情勢も大きく関係しているようです。終活と一言で言っても、その内容は人によって様々です。主なものであれば、エンディングノートや遺言、自分の葬儀について、また財産分与のことについて決めておくのもそうでしょう。
 私が住持するお寺でも檀家の方から受ける相談は、それに関係したものが、年々増えてきています。例えば、御先祖から代々続いてきたお墓を、これからさき守っていくことが出来ずに不安を感じている。また、子供さんたち次の世代や周りの人たちにはなるべく迷惑をかけたくないが、どのような方法があるのか、というようなことです。ひと昔前までとは時代が変わり文化習慣が変化してきていますので、そういった悩みを持たれる方が増えていくのは当然であるのかもしれません。この先の人生を有意義に暮らしていくためにも、こうした終活の行為は、ある意味で大切なことのように思います。

 12月8日は「成道会(じょうどうえ)」といって、私たち仏教徒にとっては、大切な日であります。仏教系の幼稚園や保育園では、毎年この時期に成道会発表会としてお遊戯会などの催しが行われています。お釈迦様は35歳のときに、ブッダガヤの菩提樹の下で禅定(ぜんじょう)に入り、お悟りを開かれました。成道とは、お釈迦様が悟りの道を完成され仏に成るということであり、この日は日本に於いて旧暦の12月8日であったとされています。
 我が宗の宗祖である法然上人が生前に残された御法語の中のひとつに「登山状」という書状がありますが、その文中に次のような一節があります。
「この世において、人として生を受けることは大変稀なことであり、そしてなかなか会うことの難しい仏の教えに出会うことができました。お釈迦様在世の時に生まれることが出来なかったのは悲しいことですが、そのお釈迦様の御教えが広がっているこの時代に生きることができたのは、大変喜ばしいことです。」
 私たちは尊い御縁により、お釈迦様がお開きになった仏法に出会う機会を、得ることができました。そして更には、800年以上前に法然上人がお勧め下さったお念仏の御教えを頂いています。物理的な終活をすることも大切ですが、この先の日暮しをおくっていくうえで、お念仏という心のよりどころを持って、心豊かに日々お過ごし頂くことをお勧め致します。

平成29年12月
「ひかり 第694号」にて掲載

 

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